
催眠状態の脳については、いろいろな研究がなされているものの、確定的なものはなく、いろいろな結果がでています。
というのも、脳の働きや脳波などは、刻一刻と変化しているもので、しかもその時の催眠状態であったり、個人差もあるのでなかなか難しいのです。
単なる『睡眠』においてさえ、レム睡眠とノンレム睡眠があり、脳波が変化することはよく知られていますが、年齢によっても睡眠の深さや質に違いがでてきて、個人差があります。
ましてや催眠状態となると、一言で『催眠術』といっても、催眠の誘導方法、被検者(催眠術にかけられる人)の催眠状態の深度、催眠暗示の内容によっても大きく異なってきます。
さらに、被検者の催眠術に対する意識や思い込み、催眠状態の中での時間の変化や与えられた暗示によっても変化したりします。
変性意識の中で、暗示が1つ入るだけで、脳の活性部位が変化したり、脳波が変化したりしますし、個人差もあるのです。
一般的に催眠術にかかったときに変化する脳の主要部位はいくつかあります。
催眠術を考えるときに、前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ:ACC)は重要な役割を果たしています。
前帯状皮質(ACC)は、刺激に対してトップダウンやボトムアップの処理を行う部位で、脳の他の領域への適切な制御の割り当てを行う部分でもあります。
前帯状皮質(ACC)は、間違いや不適切であるかを判断するエラー検出や課題の予測、情動反応の調節による感情コントロール、共感や情動の他に、意志決定や動機付けを司っている重要な部位です。
催眠術にかかると、この前帯状皮質(ACC)の活動は、抑制されます。
従って、催眠術にかかると、脳に入ってきた情報が、間違いなのかどうか、命令が不適切なのかどうかを判断し、意志決定する能力が抑制されてしまいます。
また、催眠術にかかると、前帯状皮質(ACC)の活動が抑制されることにより、自分で情報や命令を判断し、意志決定し、動機付けをもって自主的に動く能力が抑えられてしまっているので、発動性が低下し、自分から進んで動くというようなことが弱くなったり、意欲が低下し、催眠暗示に抵抗しようという気にもならなかったとか、何か動くのが面倒くさかったというようなことになったりします。
また催眠術にかかったときに、よくしゃべる人の口数が少なくなっって、ぼーっとしたような表情をしていたり、無感心、無感動のような表情になっているのも、催眠術によって前帯状皮質(ACC)が抑制されていることと深く関係があるのではないかと考えられます。
催眠状態になると、背側前帯状皮質(はいそくぜんたいじょうひしつ)と島皮質(とうひしつ)との繋がりが増大します。
背側前帯状皮質は、大脳の中でも最も進化した部位の一つとされていて、「思考の脳」と言われている部位です。
背側前帯状皮質は、記憶・学習・理解や、判断、推理や推測、意志決定、認知機能などに関与している重要な部分で、人間らしさを支えている部位とも言えます。
島皮質は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、帯状回、扁桃体、海馬、大脳基底核など、脳の様々な領域と連絡していて、これらの機能を結びつけている重要な部位です。
島皮質は、意識的な感情を生み出す情動の体験に関連した部位で、収集した情報を処理し、特に無意識の身体感覚を処理します。
島皮質は、痛みであったり、感情や不快感などといった基礎的な感情に深く関係していて、また自律神経の働きにも大きく関与している部位です。
催眠状態になると、心拍数や血圧、呼吸も変化したりしますが、これは、背側前帯状皮質と島皮質との繋がりの増大が関係していると考えられます。
さらに島皮質は、催眠暗示に対しての受動的な注意のon-offの切り替えにも深く関与しているかもしれません。
催眠術にかかると、脳の司令塔ともいうべき46野の活動が抑制されてしまうと言われています。
46野の働きとしては次のようなものがあります。
五感からの情報や過去の記憶を一時的に保持し、比較・判断し行動を意思決定を行っています。
意思決定したらそれは指令として運動野に伝えられ、さらに各筋肉に伝えられていきます。
催眠術にかかると、脳が集中リラックスモードとなり、ノルアドレナリンの分泌が減少し、すると46野の活動も低下します。
深い催眠状態になると、大脳の46野の活動は、ほとんど活動しなくなると言われています。
そうすると、注意集中の低下や、判断力の低下、計画性や問題解決力の低下が起こってきて、周りのことに無関心になっていきます。
これは、催眠状態になると、術師の言うことだけがクローズアップされた感じになって周りのことが気にならなくなったり、催眠暗示で言われたことに対して批判の目でみるフィルターが溶かされ、素直にそのまま催眠暗示を受け入れてしまうという現象にも関係あると思われます。
また、感情を司っている扁桃体のバランスを整えている背側前帯状皮質の働きが抑制されることにより、感情のコントロールがきかなくなり、感情がストレートに強くでてしまうようになります。
催眠暗示を与えられたとき、その暗示は、耳から入ってきて、聴覚野を経由し、言語野を通り、46野に伝わってきます。
そこで最高司令部である46野により、その言葉の意味が理解され、いろいろな情報と照らし合わせ、その暗示に従うかどかの判断が下されます。
暗示に従うとなれば、その指令は運動野に伝わり、さらには体を動かす筋肉に伝わっていき、体が暗示どおりに動くことになります。
催眠状態になっていると、46野の活動がほぼ停止したような状態ですので、暗示に従うかどうかの判断ができなくなっています。
すると、耳から聴覚野、言語野を通って入ってきた催眠暗示が、そのまま46野で精査・判断されることなく、そのまま運動野に伝わります。
その結果、暗示されるままに素直に体が動いてしまうのです。
催眠状態では、背側前帯状皮質(はいそくぜんたいじょうひしつ:DLFPC)と脳のDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の繋がりが減少することが知られています。
DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)は、まどろんでいて、脳がぼんやりとしているときに活性化する神経回路です。
DMNは、ぼんやりとしたり、自分のことを考えたりするときに活性化するところで、ぼーっと散歩をしていたり、珈琲を飲んで一息ついている時などに活発にはたらき、逆に何かに集中している時には非活性状態になります。
DMNのネットワークの中にある内側前頭前野は、認知行動の計画や人格の発現、適切な社会行動、自己に関わる思考を司る部位になっています。
また、後帯状皮質は、海馬や海馬周辺皮質と相互に情報のやり取りを行って、学習や記憶に深く関わったり、空間認知に深く関わっている部位になります。
そして、DMNのネットワークでは、五感を通して情報を収集し、その情報を取捨選択して、言動に反映させるという重要な役割を果たしています。
つまり催眠状態で、DMNと背側前帯状皮質のネットワークが抑制されると、収集された情報を適切に取捨選択して脳の司令塔に伝え、それを反映させるという能力が抑制されることになります。
催眠状態になると、脳の司令塔である背側前帯状皮質と、DMNのネットワークの繋がりが減少し抑制されてしまうので、ぼんやりとした状態でも、司令塔とのつながりが希薄になった状態で催眠暗示がDMNに作用してくるので、人格の発現や、適切な行動を取ったり、学習や記憶に関連したことや、体の空間認知などが、背側前帯状皮質の判断やフィルターを通さずに、催眠暗示により支持された行動を無意識にうちに行い、素直に体が反応してしまうのです。
また、DMNは認知行動や自己に関わる思考を司る部位のネットワークでもあるため、催眠術により脳の司令塔である背側前帯状皮質(DLFPC)との繋がりが抑制されると、自分を自分と認識する能力も弱まると考えられます。
それゆえ、催眠術にかかると自己感覚の喪失が現れたり、現実の世界とは別の空間にいる感覚になったり、催眠状態の自分を別のもう一人の自分が客観的にただみているといった感覚になったりする人がいるのかもしれません。
催眠術にかかると、眠い感じがするという人が多くいます。
私も催眠状態の時は、眠気があります。
これは、催眠術にかかると、脳が集中リラックスモードとなり、ノルアドレナリンの分泌が減少し、すると46野の活動も低下します。
そしてノルアドレナリンの分泌減少とは逆に、セロトニンの分泌が増加してきて、これにより催眠作用があるメラトニンが松果体から分泌されることにより、催眠術にかかり催眠状態になると、眠気を感じたりするのではないかとも言われています。
その他にも、眠りと関係が深いGABAなどが関係しているのではないかとも考えられています。
催眠術にかかり、催眠状態・トランス状態になると、すごく心地よいという人も多くいます。
これは、催眠トランス状態になると、脳内にドーパミンやβ-エンドルフィンといった物質が分泌されるから気持ちいい感覚があるのだと言われています。
脳内麻薬とも呼ばれるドーパミンの分泌量となると、おいしい食事をしたときが50、性交渉をしたときが100、お酒を飲んだときが200とすると、催眠術は2000と桁違いに多くなっていて、これは麻薬よりも多く分泌されることになります。
それであれば、催眠術も麻薬のように中毒になってしまうのではと心配する人もいるかもしれませんが、それは違います。
麻薬と違って、催眠術の場合は、催眠トランス状態という無意識状態で、脳が活性化されドーパミンやβ-エンドルフィンが分泌されているため、気持ちよく感じたりしますが、許容範囲を超えると、体に害を及ぼしてくるので、体は自然に分泌が抑えられるようなしくみになっているのです。
催眠術と関係が深いとされている神経化学物質には、ドーパミン、β-エンドルフィンのほか、グルタミン酸、GABA、NMDA、セロトニン、およびオキシトシンなどが研究されてきています。
ドーパミンの分泌が増加してくるとこれが催眠暗示と密接に関係しているのではないかという論文も出てきます。
GABAについては、その分泌が増してくると、催眠暗示性が増加してくると言われています。
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